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名古屋高等裁判所 昭和42年(う)646号 判決 1968年2月27日

本店所在地

名古屋市

パチンコ遊技場大衆食堂喫茶店経営

株式会社 鈴木商会

右代表者代表取締役

加藤美恵子

本籍

名古屋市中区栄二丁目四〇九番地

住居

同市中区栄二丁目四番七号

会社代表取締役

加藤美恵子

大正一五年三月一五日生

右両名に対する昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法違反被告事件につき、昭和四二年一〇月二四日名古屋地方栽判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人名両から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官船越信勝関与の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人相沢登喜男名義の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用する

一、控訴趣意第一点及び第二点訴訟手続の法令違反の論旨について。

所論の要旨は、

(イ)  原判決は、原判示事実認定の資料として、加藤吉朗に対する昭和三九年一〇月三日付及び同月二七日付各大蔵事務官作成の質問てん末書二通並びに植村輝三に対する大蔵事務官作成の質問てん末書一通を、それぞれ証拠に引用しているが、これら三通の書面は被告人側において証拠とすることに同意した事実なきものであつて、いずれも証拠となし得ないものである。従つて、原判決は、証拠とすることのできないものを証拠として採用した訴訟手続の法令違反がある。

(ロ)  前記書証が証拠能力なきものとすれば、原判決認定の被告会社の総所得額、脱税金額の算定等の諸事実につき、これらの書証を除いては被告人加藤美恵子の自白調書の類を残すのみとなり、これら自白を補強すべき証拠皆無に帰する。

原判示事実は補強証拠なくして認定された違法があり、従つて、またその証明は不充分といわざるを得ない。というのである。

しかしながら、本件記録を調査すると、植村輝三に対する大蔵事務官作成の質問てん末書は第一回公判(昭和四一年六月二一日)において、弁護人において証拠とすることに同意し、加藤吉朗に対する大蔵事務官作成の昭和三九年一〇月三日付質問てん末書は第五回公判(昭和四二年五月二七日)において、同じく同人に対する同月二七日の質問てん末書は第八回公判(昭和四二年八月二六日)において、それぞれ弁護人において証拠とすることに同意し、その都度適法に証拠調がなされたことが各当該公判調書の記載によつて認められる。してみると、これらの書証を証拠に引用した原判決には何ら所論のような採証手続の法令違反のかどはなく、従つて、また原判示認定には補強証拠に欠くるところもない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意第三点量刑不当の論旨について。

所論の要旨は、原判決の量刑は重きに過ぎ不当である。というのである。

よつて、本件記録を精査し、証拠により認め得る本件犯行の動機、態様、被告人会社の経営規模及び業態、脱税金額、事犯後の情況等諸般の情状を勘案すると、犯情は決して軽くないのであるから、原判決の量刑(被告人会社に対しては罰金四〇〇万円、被告人加藤美恵子に対しては原判示第一の罪につき懲役四月(執行猶予三年)及び罰金一〇〇万円、原判示第二の罪につき懲役六月(執行猶予三年)及び罰金一五〇万円)は相当というほかはない。所論にかんがみ本件後、重加算税、事業税、市民税等すべて完納したこと、その他被告人らの利益の情状と認め得るものを斟酌しても、右量刑は重すぎるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条に則り、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 村上悦雄 裁判官 西村哲夫)

昭和四二年う第六四六号

控訴趣意書

法人税法違反 被告人 株式会社 鈴木商会

同 加藤美恵子

右の者等に対する頭書被告事件の控訴趣意左の如し。

第一点原審原審判決は採証の法則に違背する違法な判決とす。

原審判決は事実認定の証拠として

1 加藤吉朗に対する大蔵事務官の質問てん末書

(イ) 昭和三十九年十月三日付

(ロ) 昭和三十九年十月二十七日付

2 植村輝三に対する大蔵事務官の質問てん末書

を夫々証拠に引用し居るも、前記各書証は被告人側に於て証拠とすることにつき同意したる事実なきに拘らず、それが証拠となしたる違法が存す。

第二点原審判決は証拠不充分の判決とす

一、前記の如く加藤吉朗に対する

(イ) 昭和三十九年十月三日付

(ロ) 同年同月二十七日付

各大蔵事務官に対する質問てん末書が証拠能力なき本件については、その犯則期間中の脱税金額算出につき計算が困難なるのみか、他の証拠を以てするも、末だ総所得金額の認定は勿論、所得秘匿の手段方法及びその金額を算定すること能わざるを以て、証拠不充分の判決と云わざるを得ない。

二、被告人加藤美恵子に対する各証書として。

1 同人の上申書

2 同人の大蔵事務官に対する質問てん末書

3 同人の検察官に対する供述調書

は存在するも、右各証拠は所謂被告人の自白なれば、犯罪事実認定に際しては、之れが証拠を補強する証拠が必要なるに拘らず、此の補強証拠中一番重要視せられる右加藤吉朗の前記各証拠が引用出来ぬ本件は証拠不充分の譏りを免れ得ない。

第三点原審判決量刑は重きに失するものなれば、破棄の上罰金刑の言渡をせられたい。

一、被告人加藤美恵子は、株式会社鈴木商会の代表取締役であるが、同社が設立せられた昭和二十八年一月頃から同人の実父である

加藤文三郎

が代表取締役となり、昭和三十九年八月二十日に至るまで約一〇年余同人の権限内に在りたるものにして、本件犯則行為も、右文二郎の代表取締役当時の案件である。

二、一件記録に顕わたれる各供述によれば、右文三郎代表当時も、被告人美恵子が取締役として、その業務統轄の実権を握り、本件違反行為の基本方針も総べて前記美恵子の指示によるものと認定せられ易い証拠関係に在るが、等しく株式会社と難も

所謂、同族会社

にして、その役員は被告人の実父又は従業員にして、此等の役員が本件脱税計画に関与することなく、被告人美恵子の単独行為とは認め難い。

三、特に、本件犯則事件による所得を被告人美恵子個人が取得した事実はなく、却つて、借入金名下に前記文三郎又は実弟吉朗等が持ち去り、因つて土地、家屋等の購入資金に当てて居る事実関係より看るならば、被告人美恵子は単なる会社役員責任としての追及は免がれ得ないが、本件の主動者としての認定は事実の確認があり、且つ延びては情状に於て影響があるものと思料す。

四、要は、被告人美恵子が加藤一家の資産蓄積のための犠牲者となり本件犯則による利得金は悉く実父等が利用し。

1 国際土地株式会社

2 東名土地株式会社

3 加藤土地建物株式会社

4 国際ゴルフ株式会社

5 東名ゴルフ株式会社

等の設立準備資金の一部に引当てられた疑いも存するを以て、被告人美恵子のみ体刑の処分は酷に失するものと云うべし。

五、然しながら、本件起訴後、判決言渡に至るまで前記親子が協力し、本件犯則金は勿論、重加算税、利子及びこれに伴う事業税、市民税等総べて完納し、心から悔悟の意を表するのみか、爾後の各申告に際しては真面目に納税して居る情状は、本刑は勿論、罰金刑に就いても、そたぞれ斟酌せらるべきに拘らず、之等の事情を看過し

1 被告人美恵子に対し体刑

2 会社に対し罰金四百万円

3 被告人美恵子に対し罰金二百五十万円

を言渡したる原審判決量刑は著しく重きに失するものとして破棄せらるべきものと信す。

援用証拠

一件記録

右陳述す。

昭和四三年一月 日

右被告人両名弁護人 相沢登喜男

名古屋高等裁判所第二部 御中

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